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水の革命―森林・食糧生産・河川・流域圏の統合的管理
蔵治 光一郎(監訳), 林 裕美子(監訳), Ian R. Calder(原著)
Kuraji ( 2008/10/22 )

21世紀の地球で、温暖化とともに人類最大の脅威と言われる「水危機」を克服するために必要とされている革命的な意識改革と技術革新を総称して「青の革命」と呼ぶ。

 21世紀は「水の世紀」とも言われる。1995年に当時世界銀行副総裁であったセラゲルディンが「20世紀の戦争が石油をめぐって戦われたとすれば、21世紀は水をめぐる争いの世紀になるだろう」と発言した。「世界の水危機」といった言葉も耳にするようになり、現状を放置すると、50年後には世界の水問題は危機的・破滅的状況に陥る可能性まで指摘されるようになった。

 このような「危機の喧伝」は、水に始まったことではない。古くは1798年にマルサスが「人口は幾何級数的に増大するが、食糧は算術級数的にしか増加しない」と警告した。この「食糧危機」に対して人間は、灌漑による乾季や乾燥地での食糧生産、農薬や肥料による生産性向上、高収量の作物の開発などに成功し、結果として人口増加に見合う食糧の増産をある程度達成した。これが「緑の革命」であり、人類史上画期的な出来事であったが、水や農薬や化学肥料を多用するやり方はさまざまな犠牲をともなった。

 食糧危機克服の手段としての「緑の革命」に対して、「青の革命」は水危機克服の手段を表現する新しい言葉である。

 本書は、「青の革命」の理念とその実践について、インド、中国、アフリカなど世界各国の事例を駆使しつつ詳細に示した、世界で唯一の本である。原著の初版は1999年に出版され、その後大幅に加筆された第2版が2005年に出版された。「青の革命」という言葉は別の意味で用いられることもあるため、本書の題は「水の革命」とした。本文中では「青の革命」を用いているが、その意味は「水の革命」である。

 「青の革命」という言葉は当初、「緑の革命」同様、革命的な科学技術によって水問題を解決するという意味で使われていた。水1滴当たりの収穫量を増やすという観点から、作物に点滴するように灌漑して少量の水を大事に使う農法などが提唱された。それに対して本書では、「青の革命」は科学技術の革命だけで実現するのではなく、それに加えて「考え方の革命」が必要だと説いている。これまでの水資源、洪水と土地利用の関係についての考え方のなかには、科学的根拠のない「神話」にもとづく本質的な間違いがあり、いくら科学技術が進歩しても、神話の正当性を確認し、誤った考え方を正さないかぎり、「青の革命」は実現されない。逆に、考え方を変えることができれば、「青の革命」は実現可能であり、水危機は克服できるという楽観的な見通しを示している。

                      * * *

 日本で初めて「青の革命」が紹介されたのは、高知工科大学の村上雅博教授が1999年8月に外務省経済局編集協力・国際資源問題研究会が発行する「国際協力」誌に執筆した「世界の水資源問題、緑の革命から青の革命へ」という論文であり、「水資源の“開発”から“管理”へ、“緑の革命”から“青の革命”へと20世紀から21世紀にかけてのパラダイムは変貌している」と述べている。

 日本は、水に恵まれた国であり、森林に恵まれた国でもある。水資源はあまり気味であり、利用されずに放置されている森林が増えている。そのため、水危機や食糧危機と言われても、大多数の日本人にとっては、それは海の向こうの話にすぎず、深刻な問題としてはとらえられていない。

 しかし、日本が水や森林に恵まれているのは、日本の人口が少ないからでもなく、日本人1人当たりの水や木材の使用量が少ないからでもない。江戸時代には日本の水や森林は食糧や燃料の生産のために極限まで利用されており、そうしなければ人間は生きていけなかった。日本の土地と水資源を最大限に利用して生産可能な食糧だけで養える人口は、江戸時代末期の推定人口(約3000万人)より少し多い程度でしかない、という試算がある。現在、日本でその約4倍もの人間が生活できているのは、輸出元の国で水を利用して作られた食糧を大量に輸入しているからである。日本は食糧を輸入することで、仮想水、バーチャル・ウォーターを大量に輸入していることになり、輸出元の国の水資源に負担をかけている。また日本は木材の80%を輸入に頼っているが、輸出国の天然林や人工林では森林が伐採されることによるさまざまな影響が発生している。日本の豊かな水と森林は、食糧や木材の輸出国の水資源や森林資源の犠牲のうえに成立していることを、我々は忘れてはならない。

 「青の革命」の考え方は、日本の水と森林をめぐる問題の解決にも役立つ。たとえば1997年の河川法改正により、全国の河川で住民の意見を聞きつつ河川整備計画の策定が進められているが、その過程で流域の森林が洪水や水資源にどのような影響を及ぼすのかが議論されている。現在もなお続けられているダム建設の現場では、森林の整備による緑のダム機能強化が、コンクリートダムの機能を代替できるのかどうか議論されている。また高知県の一級河川である物部川のように流域閉塞が現実の問題となっている川がある。こういった問題の解決に向けて現在検討されている総合治水、流域治水、統合的水資源管理、水バンクなどの新しい理念は、「青の革命」の考え方と共通している。

 しかし、本書を読むにあたり一点だけ注意しなければならないのは、人間は科学的、合理的な意思決定をするはずだという「近代的合理主義」を前提として本書は書かれているが、日本人社会の意思決定過程では、科学性や合理性は必ずしも重視されず、むしろ情緒性、宗教性、関係性が重視されることが多いということである。これは東西の歴史、伝統、文化、宗教の違いによる価値観の違いと言うべきであろう。
 たとえば本書では、「植林神話」について繰り返し批判的に述べられているが、日本人にとって植林神話は人びとの心の奥深くまで浸透しており、植林は文句なしにすばらしい行為だと見なされている。日本国内では飽き足らず、中国やモンゴル、東南アジアまで出かけていって植林し、満足して帰ってくる人がたくさんいる。このような人たちに植林と水資源の関係についての科学的、合理的考え方を理解してもらうことは容易ではない。現地の人からみれば、植林をするために全額自己負担で外国から飛行機とバスを乗り継いで、わざわざやってくるのはなぜなのか、理解に苦しむのではないだろうか。本書では中国政府が1998年以降「世界最大の実験」とも言われる大規模植林を推し進め、その結果、食糧生産、水資源、雇用などの点で数多くの犠牲を地域にもたらしていることが記述されている。

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 私が著者のイアン・カルダー教授に初めてお会いしたのは、2002年11月、林野庁と滋賀県の共催により、アジアを中心とする開発途上国および欧米諸国、国際機関、非政府組織(NGO)等が参加して開催された「国際森林専門家会議『森林と水』」であった。カルダー教授にとってはこのときが初来日であった。この会議では、「持続可能な森林経営」と水の関係について国際的に初めて幅広い関係者が議論した成果として、「森林と水に関する滋賀宣言」が採択され、「持続可能な森林経営」と水循環、水資源の保全を効果的に推進していくための提言が盛りこまれた。

 この会議、および翌2003年3月に開催された第3回世界水フォーラム「水と森林」分科会等に刺激され、私は2003年10月より日本学術振興会人文・社会科学振興プロジェクト研究事業「水のグローバル・ガバナンス」プロジェクト(代表・中山幹康東京大学教授)のもとで「青の革命と水のガバナンス」研究グループを立ち上げ、4年半の間、「青の革命」の研究を進めてきた。カルダー教授はこの間2度来日され、「青の革命」について最新の知見を披露された。

 「青の革命」のバイブルというべき本書は、初版の段階でも充実した内容であったが、第2版では最新情報が大幅に加筆され、日本についての情報も盛りこまれたことで、翻訳出版の機運がさらに高まった。幸い、宮崎県の綾の照葉樹林で市民の立場から森林と水の関係解明をめざして観測を進められている技術翻訳者の林裕美子さんに共同監訳者となっていただくことができ、私一人ではとうていできないような監訳作業を進めることができた。なお、諸般の都合で、原著の第4〜7章のうち、全体の話の流れに影響を及ぼさない範囲で省略した部分があることをお断りする。また読者の便を考え、訳注(欄外*、短いものは本文中[  ])を加え、巻末に略号一覧を示した。

 本書の翻訳者となっていただいた5名の方々は、「青の革命と水のガバナンス」メーリングリストで私がボランティア翻訳者を募り、それに応えて自発的に手をあげてくださった方々である。第1〜3章は森林水文学・河川生態学の若手研究者、第4章と第7章は国際協力の仕事をされている専門家の皆様にお引き受けいただいた。本書のカバーする専門分野は理系・文系の多分野に及んでいるが、それをカバーできる最高のメンバーがそろったと思っている。翻訳者の皆様、および、いつもながら編集作業でお世話になった築地書館の橋本ひとみさんに心から御礼申し上げたい。

2008年1月
蔵治 光一郎


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