- 2008/10/22 ( Kuraji)
現在,日本の森林は,40%以上が人工林となっており,森林の質的特徴は 大きく変化してきている.これには,戦後の拡大造林ブームにより植裁された スギ・ヒノキ等の人工林の面積増加が大いに関係している.これらの人工林 が近年,間伐の時期を迎えているにもかかわらず,間伐がなされていない ため,樹木は細く,林の中は昼なのに真っ暗であり,「荒廃」しているという 指摘がなされている.その原因として,材価の下落により,人工林が適切 に管理されていないためといわれている. 編者らは,およそ15年前よりこの問題に取り組んできたが,まず問題に なったのが,人工林が「荒廃」した場合,どのような問題が生じるかに ついての既存の研究例が,きわめて少なかったことである.1×2 mの 小区画(プロット)から水と土砂を集めた研究が数件散見されるのみであった. 真っ暗で荒廃した人工林に足を踏み入れたとき,編者はここで発生した 」水と土砂がどのように下流に影響するのであろうか,と興味をかき立て られた.また,このような状況の中で,多くの市民やNPOのメンバーが, 荒廃した人工林の管理をすることにより,森林ときれいな水を守ろうという 運動をしてきている.しかし,ややもすると「山を手入れすれば環境によい」 といった予定調和論的な論旨が目立つのも現実であった. 本書は,荒廃人工林からの水・土砂流出について,初めて総合的な 観測の結果を総括したものである.荒廃人工林の水・土砂流出の実態 について,ある程度は明らかにできたと自負している.近年,荒廃人工林 の管理を,森林環境税という地方税でまかなおうという動きが各地で 加速してきている.また,企業もCSR活動として森林管理に貢献する 例が増えてきた.本書によって得られた知見が,荒廃人工林の適切な 管理に貢献できれば望外の幸せである. ――本書「はじめに」より
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